デュアルタスク(二重課題)とは?リハビリでのトレーニング例を紹介!

本記事では、近年、認知症予防や転倒予防に注目されている「デュアルタスク(英語:dual-task)(二重課題)」の基本的なことや、リハビリで使用されるトレーニング課題例などを解説していきます。

おすすめ参考書

 

将来、転倒の不安があるは、早めにデュアルタスクトレーニングを行っておきましょう。

下記の本は、写真付きでわかりやすく、実践的な本なのでおすすめします。

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デュアルタスク(二重課題)とは?

私たちは、日常の生活の中で、一つのことに集中しながら動作を行うことは少なく、複数の課題を同時に行っています。

例えば

  • 「ヒトと話しながら歩く」=歩く+話す
  • 「コップを持ちながら歩く」=歩く+コップを持つ

など、無意識化で行っており、2つ以上の課題を遂行することを「デュアルタスク(二重課題)」と言います。

高齢になれば、デュアルタスク(二重課題)の処理能力が低下するといわれています。

ここ最近、高齢者に車の運転事故が多いのも、デュアルタスク(二重課題)の処理能力が低下しているからです。

 

では、なぜ高齢者は、デュアルタスク(二重課題)の処理能力が低下するのでしょうか?

それを理解するには「ワーキングメモリ」を理解する必要があります。

ワーキングメモリ(前頭前野)

デュアルタスク(二重課題)をスムーズに行うには、脳の中でも高度な機能を持つ前頭前野の「ワーキングメモリ」と呼ばれる機能が重要になります。

ワーキングメモリは、様々な行動場面での情報処理の一時的な保持を行います。

ワーキングメモリは、透明の箱のようなものとイメージして下さい。

例えば「歩きながら、コップを持つ」という課題を行った場合、ワーキングメモリの中に「歩行」と「コップを持つ」の2つの課題が入ります。

若年者は、このワーキングメモリの容量が大きく、複数の課題を行ってもまだ余裕がある状態です。

しかし、高齢者になると、このワーキングメモリの容量が小さくなってしまい、すぐに溢れ出てしまいます。

溢れ出るということは、動作に何らかのエラーが生じてしまうということで、結果、転倒し易くなります。

なので、デュアルタスク(二重課題)練習を行い、ワーキングメモリの容量を大きくして、「動作に余裕を持つ」ということが転倒予防に繋がります。

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デュアルタスク(二重課題)トレーニングの効果

高齢者の転倒やデュアルタスク(二重課題)に関して、たくさんの論文を発表されている山田実先生が、過去に「デュアルタスクのバランストレーニングの転倒予防効果」について研究発表されています。

対象者は要支援から要介護2までの状態にある虚弱高齢者。

  1. デュアルタスク+バランストレーニング群(DT群)
  2. バランストレーニングのみ(ST群)
  3. コントロール群

の3群に分け,12週間の介入を行った結果、DT群のみ歩行速度が優位に向上し、さらに,DT群でのみ,介入後6か月間の転倒発生状況が顕著に減少していた(介入前40.9%→介入後4.5%)

引用文献:Dual-taskバランストレーニングには転倒予防効果があるのか?―地域在住高齢者における検討─.理学療法ジャーナル,2008,42: 439-445.

転倒予防には、筋力トレーニングやバランストレーニングさえすれば良いと思ってしまいがちですが、それだけでは不十分な可能性があって、デュアルタスク(二重課題)も併せてトレーニングした方が効果的ということがわかります。

また、筋力トレーニングやバランストレーニングなど、単調で面白みに欠けてしまいがちですが、デュアルタスク(二重課題)トレーニングを加えることで、ゲーム感覚で楽しめて、長続きしやすくなるでしょう。

デュアルタスク(二重課題)の評価

Stop Walking When Talking(SWWT)

有名なものに、「Stop Walking When Talking(SWWT)」 があります。

歩行中に話しかけると立ち止まってしまう現象のことで、立ち止まってしまう場合、6ヶ月以内に転倒してしまう可能性が高いと言われています。

話す内容は、体調や天候などでも良いですが、デュアルタスク(二重課題)を考えると、昨日の晩ゴハンや今日の日付であったり、想起する必要のある質問が望ましいでしょう。

引用文献:Lundin-Olsson L, Nyberg L, Gustafson Y. “Stops walking when talking” as a predictor of falls in elderly people. Lancet. 1997; 349: 617.

Dynamic Gait Index(DGI)

主に、高齢者や脳神経障害などの転倒リスクを評価するために開発されました。

歩行中に、速度を変えたり、頭部を左右に向けたりなど、動作に課題を与える歩行能力の評価で、高い動作能力が必要となります。

このDynamic Gait Index(DGI)は、脳卒中患者において、デュアルタスク(二重課題)処理能力と強い相関があり、デュアルタスク(二重課題)処理能力の評価に有用という研究報告がされています。

Stop Walking When Talking(SWWT)より、時間と手間はかかりますが、デュアルタスク(二重課題)処理能力に加えて、転倒リスク等も客観的に評価できるので、使用しても良いでしょう。

引用文献:井上 優ら:脳卒中患者のDynamic gait indexによる二重課題処理能力評価の妥当性の検証.理学療法科学 27(5):583–587,2012

 

Dynamic Gait Indexの評価用紙をpdfで配布しています。宜しければ使って下さい。

Dynamic-Gait-Index.pdf

デュアルタスク(二重課題)トレーニングの適応

デュアルタスク(二重課題)トレーニングの効果が得られる方は、運動機能レベルが高く、日常生活で不自由のない方です。(具体的にはTUG11,1秒以上と言われています。)

もし、歩いていて、既にふらつきや不安のある方は、デュアルタスク(二重課題)能力よりも、筋力を優先的に鍛えた方が効果的です。

 

筋力が低下している状態の「サルコペニア」や「フレイル」を過去の記事で解説していますので、詳しくは下記の記事をご覧ください。

関連記事>>サルコペニアの予防とリハビリ。効率的な栄養補給と運動療法を解説!

関連記事>>フレイルの診断や評価と予防!サルコペニアとロコモとの違いとは?

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デュアルタスク(二重課題)トレーニングメニューの例

ステッピングエクササイズ

椅子に座った状態で、なるべく早く足踏みをしながら単語を思い浮かべます。(語想起)

最初は5秒から開始して、徐々に延長し、10秒まで延長します。

 

思い浮かべる単語は、「野菜の名前」「動物の名前」「魚の名前」などのカテゴリや

「あ」から始まるもの。など頭文字を指定して行っても良いでしょう。

座って行うため、1人でも安全にできます。中々難しいですが、チャレンジしてみて下さい。

ひとりじゃんけん

あらかじめ「右手が勝つ」というルールを決めてひとりでじゃんけんをします。

両手で「グー、チョキ、パーの形を作る」のと「右手が勝たせて、左手を負けさせる」という複合的な課題になります。

ジャンケン、ホイ!ホイ!で、1回目のホイで、右手を出し、ワンテンポ遅れてわざと負けるように左手を出します。

いつでも、ひとりで気軽にできます。主に認知症予防に効果的です。

デュアルタスク(二重課題)歩行トレーニング

歩きながら課題を行います。

主に

  • 「100‐7」「100‐3」などの計算をしながら(単純計算課題)
  • しりとりをしながら(語想起)
  • コップの上にボールを置き、持ちながら(不安定なものであれば良い)

などです。

実用的な歩行に繋がるでしょう。

リズミック・ステッピング・エクササイズ

1分に60~120回程度に足踏みをしつつ、左右前後に口頭や視覚的に支持された方向へステップを行うものです。

時間は、最初は1分程度から開始して、段階的に3分、5分と延長していきましょう。

手拍子や掛け声をしながら行うとリズムが刻みやすくなります。

週1回程度で6か月行うことで、デュアルタスク(二重課題)下での歩行能力が向上し、転倒恐怖感が減少するといわれています。

 

ほかにも、足踏みをしながら、数を数え、3の倍数になったら、手を叩くというトレーニングもあります。

これらは、国立長寿健康医療研究センターが、立案した認知(コグニッション)と運動(エクササイズ)を合わせたコグニサイズと呼ばれている運動です。

コグニサイズとは国立長寿医療研究センターが開発した運動と認知課題(計算、しりとりなど)を組み合わせた、認知症予防を目的とした取り組みの総称を表した造語です。英語のcognition (認知) とexercise (運動) を組み合わせてcognicise(コグニサイズ)と言います。Cognitionは脳に認知的な負荷がかかるような各種の認知課題が該当し、Exerciseは各種の運動課題が該当します。運動の種類によってコグニステップ、コグニダンス、コグニウォーキング、コグニバイクなど、多様な類似語があります。コグニサイズは、これらを含んだ総称としています。

引用:国立長寿健康医療研究センター

コグニサイズの詳細はこちら(国立長寿健康医療研究センター)

誰でも簡単に行うことができるので、認知機能の維持、向上や、デュアルタスク(二重課題)処理能力の向上にも繋がるでしょう。

まとめ

デュアルタスク(二重課題)の基本や、リハビリでのトレーニング課題の例などを解説しました。

もし、筋力や身体機能に大きな問題がないのに、つまずく場合、このデュアルタスク(二重課題)能力が低下しているかもしれません。

早めに、対策をして、転倒予防や認知症予防に努めましょう!

 

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