現代の日本は、4人に1人は、高齢者という超高齢化社会です。
そのため、要介護状態にならないための、介護予防が国の課題となっています。
その介護予防を語るうえで、「サルコペニア」は外せません。
今回は、サルコペニアの原因や、診断、予防、リハビリ(栄養、運動療法)について解説させて頂きます。
サルコペニアの予防・治療が図表を用いてわかりやすく解説してあります。
医師・コメディカルスタッフの入門書に最適です。
サルコペニアの定義
サルコペニアはギリシャ語で
- サルコ(sarco)=筋肉
- ぺニア(penia)=減少・消失
を掛け合わせた造語です。
サルコペニアの概念が作られる前までは、加齢になると、筋力が低下して、ふらふらし、転倒するということは広く知られていましたが、
1989年にRosenberg IHが、その重要性を主張し、「加齢による筋肉量減少」を意味する用語として作られました。
それから、サルコペニアの定義は、「加齢に伴って生じる骨格筋量と骨格筋力の低下」とされてきました。
簡単に言えば「歳いったら、筋肉量と筋力低下する。」ということです。
しかし、現在は、研究や臨床・診療で使用するための、広く受け入れられる定義はいまだ存在していないのが現状です。
一般的に、20歳と70歳とで筋肉量などを比較すると、
- 骨格筋面積は25~30%低下
- 筋力は30~40%低下
- 50歳以降、毎年1~2%程度、筋肉量は低下
- 減少した筋肉は脂肪に置き換わる
と言われていますが、サルコペニアは、それ以上に、筋肉量が減少し、筋力が低下すると言われています。
サルコペニアの診断
サルコペニアの診断基準を2種類ご紹介します。
サルコペニアの診断には、ヨーロッパのワーキンググループEuropean Working Group on Sarcopenia in Older People(EWGSOP)による診断がよく使われています。
しかし、ここ最近では、ヨーロッパ人とアジア人は筋肉量や体格も異なるということから、アジアのワーキンググループ、Asian Working Group for Sarcopenia(AWGS)がアジア人向けのサルコペニア診断アルゴリズムを作成しました。
参考文献:畠中泰彦.サルコペニア研究-理学療法士によるバイオメカニクス的アプローチ
ヨーロッパ人より、アジア人の方が筋肉量は少ないので、EWGSOPより、AWGSの基準の方が低く設定されています。
なので、我々は、AWGSが適応になります。
評価項目として
- 歩行速度の測定
- 握力測定
- 筋肉量測定(BIA)
を行います。
中々、日常的には測定できない項目が多いですが
歩行速度に関して、横断歩道は、10m10秒で渡り切れるように設定されています。
なので、横断歩道が渡り切れなくなってきたら、危険と思っておいた方が良いでしょう。
筋肉量測定(BIA)とは、体内に微弱な電流を流して水分量や体脂肪、筋肉量を間接的に求める方法です。
体脂肪計と同じ原理ですが、機器が自宅にある方は少ないと思うので、大体の方は、病院や施設で計測します。
サルコペニアの原因
サルコペニアは大きく、一次性、二次性の二つにわけられます。
一次性サルコペニア
- 加齢性サルコペニア:加齢以外に原因のないもの。
二次性サルコペニア
- 活動低下によるサルコペニア
- 疾患によるサルコペニア
- 栄養不良によるサルコペニア
一次性サルコペニアは、加齢が原因となりますが
二次性サルコペニアは、若年者でもなる可能性がありますが、その場合、高齢者と比較して回復は早いです。
活動低下、疾患、栄養不良など、根本的な原因を集中的にアプローチする必要があります。
サルコペニアのメカニズム
サルコペニアを予防するには、大まかなメカニズムを理解することが重要です。
メカニズムとしては、内分泌系や、脳神経系に起因するものなど、様々なことが言われていますが、その中で基本となるメカニズムは、筋タンパク質の合成、分解です。
正常な筋肉でも、日々、筋タンパク質は合成と分解を繰り返しています。
しかし、加齢などの影響によって、筋タンパク質の分解量が合成量を上回る状態が持続してしまうこと、サルコペニアになってしまいます。
なので、基本的な予防や治療としては、しっかりと栄養(良質なたんぱく質)を摂取し、運動を行うことで、筋タンパク質の合成が分解を上回れば良いとうことになります。
サルコペニアの予防
サルコペニアを予防するには、運動+栄養が重要になります。
どちらも欠けてはいけません。両方しっかりと行う必要があります。
しかし、せっかく行うのであれば、効果的な運動や栄養補給を行いたいと思うはずなので、これからその方法を解説します。
サルコペニアに有効な運動
サルコペニアの予防をするために有効な運動は「レジスタンス運動」とされています。
レジスタンス運動とは?
レジスタンストレーニング(resistance training)とは,局所あるいは全身の筋群に負荷(抵抗)を与え,筋力,筋パワー,筋持久力といった骨格筋機能の向上に主眼をおくトレーニング手段の総称です。
わかりやすく言えば、抵抗を加えた筋トレです。
レジスタンストレーニングを行うことで、筋組織中のたんぱく質を増加・維持を図ります。
運動の強度について、先行研究では、高強度・高頻度が有効であるといわれています。
しかし、心疾患をお持ちの方や、超高齢者(90歳~)は、場合によっては運動中に死亡や、心疾患系のリスクが増すため、必ず低強度(3METs以下・・・階段昇降程度)から開始することが定められています。(Gill TM.2000)
でも、効果を発揮するには、しっかりとリスク管理をしたうえで、中等度の運動に加えて、有酸素運動や高強度な運動を取り組んでいくことで、予防に十分な効果があります。
負荷量としては、自覚的運動強度(borgscale)の「ややきつい」と感じる程度が良いでしょう。
なのでサルコペニアのレジスタンストレーニング中は、十分にリスク管理を行う必要があります。
サルコペニアのレジスタンストレーニングの実際
高強度のレジスタンストレーニングを行うには、通常、マシンやダンベルを使用します。
しかし、そのような運動は、ジム、病院などでは可能ですが、在宅やセルフトレーニングでは
- 特別な環境がないと実施しにくい
- 怪我や筋損傷のリスクがある。
- 「しんどい」「きつい」という認識がついてしまって、運動が継続しない。
などの理由から、現実的には難しい傾向があると思います。
そのため、自分の体重を負荷とする自重トレーニングが好ましいと思われます。
代表的な自重トレーニングに、
- スクワット
- 踵上げ(ヒールレイズ)
- フォワードランジ
- サイドランジ
などがあります。
通常、高強度が推奨されますが、このような自重トレーニングの場合、回数を増加させることで同様の効果が得られる可能性があります。
そのため、自覚的運動強度(borgscale)の「ややきつい」と感じる程度の運動回数・強度が好ましいと思います。
またこのような自重トレーニングのほかにも、特に疾患のない自立した、80歳を超える高齢者では、通常歩行(1,16m/s)を少し超えるだけで相対的な高強度になるという報告もあります。(Malatesta D.2004)
レジスタンストレーニングのほかにも高齢者に特化した運動指導を行う必要があります。
サルコペニアを予防する栄養・食事
レジスタンストレーニングが終了すれば、しっかりとした栄養を補給しましょう。
サルコペニアの予防には、筋たんぱく質の分解を合成量に上回らなくてはいけないので、たんぱく質の摂取が必要です。
たんぱく質を補給するタイミングは、「レジスタンストレーニング直後」で、摂取するたんぱく質は、「BCAA(分岐鎖アミノ酸)」が最も有効とされています(Wakabashi H.2014)
この方法は、健常者の筋力アップを狙った場合でも、有効ですが、サルコペニアでもおなじです。
なので、効果を発揮するには、
- BCAA
- ビタミンB群
- ビタミンD
の摂取が重要となります。
BCAAとは?
分岐鎖アミノ酸(BCAA:Branched Chain Amino Acid)の略で、バリン、ロイシン、イソロイシンという3つの必須アミノ酸の総称です。
カラダの筋たんぱく質を増やし、運動時のエネルギー源として重要なアミノ酸です。
- 肉類(鶏肉、豚肉、牛肉)
- 魚類(まぐろ、かつお、さけ)
- 穀類(玄米、そば)
- 大豆類
- 乳製品
などに含まれています。
ビタミンB群
たんぱく質を身体に吸収できる状態のアミノ酸まで分解するには、ビタミンB群が必要です。
ビタミンB群を含む食材は
- 大豆
- きなこ
- 豚肉
- 玄米
などがあります。
ビタミンD
ビタミンDは、筋たんぱく質の合成に重要とされています。
ビタミンDは
- しらす
- いわし
など魚に多く含まれています。
また、ビタミンDは日光浴により活性化されます。できれば一日15分の日光浴を習慣づけましょう。
ホエイプロテインを飲もう
上記で色んな食材をご紹介しましたが、こんなにたくさんの食材を運動後に、バランス良くとるなんて不可能です。
めちゃくちゃ頑張ってトレーニングした直後に豚肉なんか食べる気がおきないと思います。
なら紹介するなよ!!!って話ですが・・・
なので、十分に朝・昼・晩と栄養をバランス良くとったうえで
運動後に、「ホエイプロテイン」を飲むことで、十分な効果が得られます。
プロテインなんて、ボディービルダーが飲むものだと思いがちですが、それは間違いです。
ゴリゴリなマッチョマンを目指さなくても、効率的に筋肉量を増やすためには、飲むべきです。
レジスタンス運動の効果を更に向上させるための、乳タンパク質の「カゼイン」と「ホエイ」も入っています。
- カゼイン:タンパク質の分解を抑制する
- ホエイ:タンパク質の合成を促す
カゼイン、ホエイの中に、先ほど紹介した「BCAA」が多く含まれています。
もはや、ホエイプロテインは、サルコペニアにうってつけの栄養補給方法なのです。
健康な高齢者がレジスタンス運動後にカゼインとホエーを摂取することで筋繊維の合成速度が優位に上昇することが認められています。
効果を最大限に引き出すには、運動の30分以内にタンパク質を摂取する必要があるとされています。
効率よく効果を発揮したいのであれば、レジスタンス運動終了後にホエイプロテインを摂取しましょう。
プロテインの摂取は、高齢者でも問題ありません。
むしろ、その有効性が証明されているので、高齢者ほど飲むべきなのです。
注意:腎機能が低下している場合、多量のたんぱく質摂取で腎臓に負担が生じる可能性があるため、一度、お医者さんに相談する必要があります。
わたしも昔飲んでいました。ココア味で牛乳で割るとおいしいですよ。一度、お試し下さい。
まとめ
サルコペニアについて解説しました。
私が思う、サルコパニアの予防方法は、長生きしたい!と思うことです。
長生きしたいと思うことで、運動や栄養など予防対策を継続することができます。
そう思うために、日常生活で楽しみを見つけましょう。
- きれいな花を眺める。
- 朝日や夕日を眺める。
- 可愛い女の子を眺める。
何でも良いのです。
楽しみがあれば、長生きしたいと思い、つらい運動も頑張れます。
なので、本人自体が楽しみを続けるために、健康で長生きしたい。と思うことがサルコペニアの予防の第一歩だと思います。
サルコペニアの方々やその家族の方に知識が付き、自ら早期に予防できるようになることを願っています。