という方に本記事では、現役理学療法士が歩行におけるトゥクリアランスの意味や、低下の原因などを解説していきます。
トゥクリアランス(toe clearance)とは?
- トゥ(toe)=つま先
- クリアランス(clearance)=間隔
トゥクリアランス(英語:toe clearance)とは、歩行において「床からつま先の間隔」のことを言います。
よくリハビリの臨床では、下記のように言われます。
- トゥクリアランス
- 床クリアランス
- クリアランス
全て同じ意味ですので、間違えないようにして下さいね!
当然のことですが、トゥクリアランスが低いと歩行中に床と脚が接触して、転倒してしまいます。
トゥクリアランスの低下は、高齢者や脳卒中、脳梗塞後遺症などの患者さんにおいてよく観察され、転倒の原因になることが多いです。
トゥクリアランス低下の原因は、歩行のメカニズムを簡単に理解する必要があるので、簡単に解説していきます。
歩行のメカニズムについて知りたいという方はこちらの記事をどうぞ。
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トゥクリアランスが低下する原因
トゥクリアランス低下の原因は、歩行周期の遊脚相と立脚相の原因とでわけられます。
下記の原因が全てではありませんが、よくある例を挙げます。
遊脚相での原因
- 遊脚相の膝関節の屈曲角度不足
- 遊脚相の足関節の背屈角度不足
立脚相での原因
- 対側ミッドスタンスでの、股・膝関節の屈曲角度の増大
遊脚相の膝関節の屈曲角度の不足
トゥクリアランスを得るために最も重要な要素は、膝関節と足関節の角度です。
中でも膝関節屈曲角度は、イニシャルスウィングで60°にもなるので、膝関節の屈曲角度がトゥクリアランスを確保するために重要なことも理解できると思います。
遊脚相の膝関節屈曲角度が不足する代表的な原因は、下記の2つです。
- プレスウィングでの股関節伸展角度の減少
- 大腿四頭筋の筋緊張亢進
中でもプレスウィング(Pre-swing)での股関節伸展は、トゥクリアランスを得るための重要な要素です。
プレスウィングでの股関節伸展で腸腰筋が伸張されて、その弾性力を利用して勢いよく前方へスウィングされます。
例えるなら、輪ゴムを伸ばして(プレスウィング)解放する(イニシャルスウィング)みたいな感じですね。
そのスウィングの勢いで、受動的に膝関節屈曲し、トゥクリアランスが得られるのです。これを遊脚相の「二重振り子の作用」と呼びます。
ですが、プレスウィングで股関節がしっかり伸展していないと勢いよくスウィングができず、受動的な膝関節屈曲が得られないのでトゥクリアランスが低下して、転倒につながってしまいます。
特に脳卒中、脳梗塞後遺症の方にこの現象は多く見られます。
なので、しっかりとプレスウィングで股関節伸展位のポジションが取れるように、アプローチする必要があります。
例えば後方からの歩行介助で立脚後期でしっかりと股関節伸展を促したり、健側を一歩大きく踏み出して患側の股関節伸展を促すステップトレーニングなども1つの方法です。
遊脚相の足関節の背屈角度不足
通常の遊脚相の足関節の角度は、底屈5°~0°と言われています。
- イニシャルスウィング:底屈5°
- ミッドスウィング:0°
- ターミナルスウィング:0°
足関節の背屈角度が不足している代表的な原因は3つあります。
- 下垂足(drop foot)(腓骨神経麻痺)
- 下腿三頭筋の筋緊張亢進
- 足関節背屈可動域制限(底屈拘縮)
下垂足は、脳梗塞後遺症や、つま先を持ち上げる「前脛骨筋」を支配してる腓骨神経麻痺などで見られます。
前脛骨筋に関してはこちらの記事で詳しく書いています。
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前脛骨筋が麻痺してしまうと、つま先が持ちあがりません。
なので、代償的にクリアランスを確保するため、股関節、膝関節を過度に屈曲させる「鶏歩(けいほ)」と呼ばれる異常歩行が観察される場合もあります。
下垂足のような随意的な背屈運動ができない場合、一般的に臨床では下記のような「短下肢装具」を用いて、遊脚相で底屈位となるのを防ぎます。
渡辺英夫:日本義肢装具学会誌.プラスチック短下肢装具の適応と選択,vol6,No.3,1990
患側が全体的に筋力低下や随意性低下が見られる場合は、装具の重さでより一層引っ掛かりが強くなる場合もあるので、しっかり評価を行う必要があります。
また下垂足であれば、イニシャルコンタクトで踵接地ができず、ヒールロッカーなどのロッカーファンクションが使えなくなるので、効率の良い歩行ができなくなります。
なので、下垂足は優先的にアプローチするべき箇所です。
ロッカーファンクションについては、こちらの記事で詳しく記載しています。
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ミッドスタンスでの股関節、膝関節の屈曲角度の増大
クリアランスの低下は、遊脚相だけ注目してしまいがちですが、立脚相にも原因があります。
スウィングしている最中の対側下肢は、重心が最高位となるミッドスタンスぐらいの時期です。
この時、対側下肢は重心を最高位まで持ち上げれていればよいのですが、股関節、膝関節が屈曲位となると、クリアランス低下の原因となります。
なので、ミッドスタンスでしっかりと重心を持ち上げておくことが重要です。
トゥクリアランスを得るための代償動作
遊脚相で膝関節屈曲角度と足関節底屈角度が減少している場合、トゥクリアランスを確保するために、下記のような代償動作が行われます。
- 鶏歩(けいほ)=膝関節を過度に屈曲させる。
- 分回し歩行=股関節を外転させ、ぶん回す。
「代償動作=悪い」というイメージをもってしまいがちですが、私はそうは思いません。
エネルギー効率は悪いですが、根本的な原因に色々とアプローチして、どうしても解決できない場合は仕方ないと思います。
なので、代償動作でもいいからしっかりと安全に歩けるようにアプローチすべきでしょう。
しかしながら、代償動作となっている根本的な原因が解決できそうな場合や、まだアプローチをしていない場合は、積極的に試してみるのも必要なのではないかと思います。
まとめ
トゥクリアランスの基礎的なことや、低下の原因などを解説しました。
なぜ、トゥクリアランスが低下しているかは、先ほどあげた原因以外にもたくさんあると思います。
上手に問題点を抽出し、その方にあった解決方法やアプローチがを行っていきたいですね。