ストレッチとは「筋肉を伸ばして柔軟性を向上させる運動」のことです。
1960年頃にアメリカのスポーツ科学分野で使われ始め、1970年代後半から世界に広まりました。
今回は、スポーツ医学やリハビリテーション医学の観点からストレッチの種類、方法、効果などを解説していきます。
説明はいらないほどのストレッチの名書です。
一冊持っていれば、ストレッチのことがほぼ全てわかります。
専門書ではないですが、マンガで日常生活で使えるセルフストレッチを解説しています。
読みやすくて実用的。おすすめです。
ストレッチ?ストレッチング?どっち?
どちらでも良いかもしれませんが
- ストレッチ=一時的に伸張する。
- ストレッチング=伸張し続ける。
という意味があります。
厳密にいえば、私たちは筋肉を伸張するときに一時的に伸張させるだけはなく、筋を伸張し続けて効果を発揮させるため、「ストレッチ」よりも、「ストレッチング」の方が適切な表現とされています。
そのため、学術論文などではストレッチではなく、ストレッチングという表現が使用されています。
ストレッチングの効果
ストレッチングの効果は
- 関節可動域(柔軟性)の 改善
- 筋緊張の低下
- 血流増加
- 疲労回復
- 傷害予防
- スポーツパフォーマンスの向上
などがありますが、最も効果があるのは、筋の柔軟性の改善と言われおり、それを期待して、行われている方が多いと思います。
ストレッチングの種類
ストレッチングは、大きくわけて4つにわかれます。
- スタティックストレッチング(静的ストレッチング)
- バリスティックストレッチング
- ダイナミックストレッチング
- PNF応用ストレッチング
順に解説します。
スタティックストレッチング(静的ストレッチング)
反動や弾みをつけずにゆっくりと筋を伸張するストレッチングです。
筋を伸張した状態で止めて、反動をつけずに30~60秒保持します。
防御性収縮が出ないよう、痛みが出る寸前で静止させます。
そのため、筋損傷などがなく安全であり、最も多く行われています。
筋の柔軟性を向上させ関節可動域を拡大したい方は、このストレッチング方法が確実と言えるでしょう。
ちょっとしたテクニック
手を使って、筋の伸張具合をコントロールするのは難しいので、腱または筋腹を指で圧迫し、微妙な筋の伸張具合をコントロールしましょう。
この腱や筋腹を圧迫することにより、伸張する方法を「ダイレクトストレッチング」と言います。
バリスティックストレッチング
施術者や自らが、反動をつけて筋を伸張するストレッチです。
反動で筋紡錘が刺激されて、場合によっては筋緊張が上がる可能性があるので、可動域制限などがある患者さんに使用するのには少し問題があります。
主にスポーツ分野では、パフォーマンスを上げるために使用されることが多いです。
しかし、外的な力を利用するので、筋損傷を引き起こすリスクがあります。
実施される際は、十分に注意が必要です。
ダイナミックストレッチング
相反神経支配を利用してストレッチングに応用したものがダイナミックスストレッチングです。
相反神経支配とは?
関節の動きを円滑にするために、主動作筋が収縮した時に拮抗筋が弛緩する神経機構を相反神経支配と言います。
伸張したい筋の拮抗筋を収縮させることにより、対象の筋が弛緩します。
弛緩後は、ストレッチングを行い、収縮と伸張を繰り返します。
PNF応用ストレッチング
固有受容器神経筋促通法(Proprioceptive Neuro muscular Facilitation:PNF)を応用して行うストレッチングです。
対象の筋とその拮抗筋のどちらか、または両方の筋の収縮と弛緩を繰り返す方法で、伸張されている筋の収縮を抑制する神経の仕組みを利用したストレッチングです。
PNFはスタティックストレッチングと比較して、より効果があるといった報告が多くあります。
私も臨床で多く使用しますが、非常に効果的で激的に筋が伸張します。
そのPNFストレッチングは更に
- ホールドリラックス
- コントラクションリラックス
- スローリバーサルホールドリラックス
の3つにわけることができます。
ホールドリラックス
対象の筋を最大に収縮させて、その後の弛緩作用を利用しているストレッチングです。
まず、対象の筋に対して5~10秒ほどスタティックストレッチングを行います。
次に筋を伸張した状態で、最大筋力の60~80%のくらいの力で等尺性収縮をさせ、これを3~5秒続けます。
その後、筋が弛緩するので、可能な範囲で筋を伸張させます。これを3~5セットを繰り返します。
注意点として、ストレッチング中に、筋が伸張し、思った以上に可動域が拡大します。
そのため痛みが伴う場面もありますので、防御性収縮を起こさないように、しっかりと患者さんの表情などをしっかり見ながら行う必要があります。
コントラクションリラックス
ダイナミックストレッチングと同様に拮抗筋の収縮による相反抑制の利用します。
ホールドリラックスとは逆に、対象の筋ではなく、拮抗筋を最大収縮の60~80%程度で収縮させます。
これを3~5秒続け、その後、筋が弛緩するので、可能な範囲で筋を伸張させます。これを3~5セットを繰り返します。
スローリバーサルホールドリラックス
この方法は上記のホールドリラックスとコントラクションリラックスを組み合わせた方法です。
まず、スタティックストレッチングを行い、その後、対象の筋を等尺性収縮後に拮抗筋の等尺性収縮させ、ストレッチングを行います。これを3~5セットほど行います。
何気なく行っているようでも、上記のようにストレッチングにも種類があります。
患者さんにより、使い分けることにより、より効果的なストレッチングが可能となるでしょう。
ストレッチングの効果
ストレッチングで筋力は変化するの?
ストレッチングを実施して、筋力や筋パワーは低下するという報告が多くあります。
スタティックストレッチングの場合、伸張時間が90秒以上となると明らかに筋力、筋パワーが低下しますが、45秒以下であると、ほとんど筋力を低下させません。
しかし、ダイナミックストレッチングの場合、筋力・筋パワーの低下が見られず、90秒以上のストレッチングでは筋力が向上が見られます。
また、動物実験レベルですが、持続的に3~30日間のストレッチングを加えたところ、逆に筋肥大を認めたとの報告もあり、ストレッチングは方法や、持続時間により、筋力を向上させたり、低下させたりする可能性があるといわれています。
筋パワーとは?
筋力とスピードの両方の要素を含んだもので「筋パワー=筋力×スピード」と定義されています。
ストレッチングによりパフォーマンスは変化するの?
一般的に運動前にスタティックストレッチングがよく行われています。
そして、そのストレッチングをすることにより、古くから、怪我をし辛く、パフォーマンスが向上すると信じられてきました。
しかし、現在まで、そのようなエビデンスが得られていません。
ストレッチング後のジャンプの高さを計測した研究では、ジャンプの高さは90秒以上のストレッチングで低下が見られました。
しかし、ダイナミックストレッチングに関しては、パフォーマンスを低下せず、むしろ向上させるという報告があるようです。
そのため、スタティックストレッチングは、関節可動域の改善目的で行い
ダイナミックストレッチングでは、パフォーマンスを向上させたい場合などに使いわける必要があると思われます。
ストレッチングは傷害予防に効果があるの?
現在のところ、障害予防に効果があると結論付けられていません。
しかし、足関節背屈可動域が低いと、傷害発生率が2.5倍と高くなったという報告もあることから、日ごろからスタティックストレッチングなどを行い、関節可動域を拡大しておくことは、障害予防に繋がるのではないかと思われます。
ストレッチングは筋肉痛を防止するの?
ストレッチングで、遅発性筋肉痛を軽減させることは可能と報告されていますが、効果はごく僅かで、100ポイント中、0.5ポイント低下させ、半日後や 3 日後についても同様の傾向が見られたとの報告があります。
この研究の結果からは、やってもやらなくてもほぼ変わらないですが、何となく治りが早い気がするので、私は遅発性筋肉痛となった場合、入念にやっています(笑
まとめ
ストレッチングの種類・方法・効果について説明させて頂きました。
一概にストレッチングといっても、筋肉をただ伸張するだけではなく、その中にも非常に奥が深いテクニックや思考があります。
毎日何気なく実施するのではなく、場合や状況に応じて使い分けれたら良いですね。
参考文献
- 市橋則明:ストレッチングのエビデンス.2014.理学療法学.第41巻第8号.pp.531‐534
- 市橋則明:運動療法学(第 2 版).文光堂.東京.2014.pp.196‐19