バランストレーニングってどんな種類があるか、わかりづらいですよね。
本記事ではリハビリ専門職向けにバランストレーニングの作り方や、実際に私が臨床でよく使っているバランストレーニングの鉄板23選を解説します。
具体的にどんな患者さんに使ってるの?
どういうメリットや効果があるの?というし視点でも解説しています。
この記事を読むことで、リハビリのバランストレーニングの基本的な知識を確実に増やすことができます。
バランストレーニングは難易度が命
バランストレーニングを考えるとき、あなたは何を基準に考えるでしょうか?
最も重要な基準は「患者さんの身体機能に合わせた難易度」です。
むずかし過ぎてはリハビリになりません。
かといって、簡単過ぎてもリハビリになりません。
「できそうで、できない!!!」ぐらいのレベルがバランス能力を向上させるのに一番効果的です。
バランストレーニングの難易度は、支持基底面の広さと重心の高さを基本として作られます。
重心の高さが高く、支持基底面が狭くなるにつれて難易度が難しくなります。
逆に、重心の高さが低く、支持基底面が広くなるにつれて難易度が低くなります。
なので基本的には、座位⇒四つ這い⇒膝立ち⇒立位⇒片足立位になるにつれ、難易度は高くなります。
支持基底面の広さと重心の高さに加えて、必要に応じて難易度に関連する要素を組み合わせます。
例えば、四肢を動かすことにより動的バランスの要素を加えたり、開眼・閉眼などを組み合わせることにより、難易度の幅が広がります。
難易度の要素
- 制御を必要とする関節の自由度
- 動的バランス/静的バランス/外乱
- 環境:静/動
- 課題:single task/dual task
- 視覚情報: 開眼/閉眼
このように、重心の高さ+支持基底面の広さ+難易度の要素などを組み合わせながら、患者さんにあったバランストレーニングを立案します。
バランス練習は決してパターン化されているものではなく、患者さんの身体機能に依存するものです。
これからご紹介するバランストレーニングの基本的な型を参考にして、患者さんに合うベストなバランストレーニングをお考え下さい。
過去にアップしたバランスの基本的な考え方の記事を参考にしてもらえると、より理解が深まるかもしれません。
座位レベル
座位でのバランストレーニングは、主に頸部・体幹のコントロールや体幹、股関節の筋力、協調性が重要です。
実際の臨床では脳卒中の重度麻痺の方や、小脳梗塞などの強い失調症状が見られる方に使用することが多いです。
座位が保持できない患者さんは、非常に転倒のリスクが高いので側方についてしっかりと介助しましょう。
チェックポイント
側方のリーチ:セラピストの手にタッチしたり、輪投げの棒に輪を入れるなど、目標物を作ってリーチを行うと、距離感がわかりやすくなり、より効果的なトレーニングになります。
体幹の屈曲、伸展、回旋:棒を両手に持ちながら体幹運動を行うことで肩甲骨の動きも促されて、より効果的なトレーニングとなります。
四つ這いレベル
主に体幹深層の筋(コアマッスル)や上下肢、体幹の全体的な協調性が鍛えられるので、転倒予防に効果的なバランストレーニングです。
円背など、腹臥位がとれない方などは厳しいかもしれません。
私は患者さんが高齢の場合、5秒キープを5~10回ほどの負荷量で行ってもらっています。
膝立ちレベル(kneeling)
膝立ちは体幹、股関節、膝関節の筋力、協調性などが重要です。
主に脳卒中による運動麻痺や失調症状などにより、体幹、股関節の協調性や筋力が低下している方などに使用します。
チェックポイント
日常生活において意識的に行う動作ではないので、初めはふらつく方も多いです。
そのため、両膝立ち+介助から開始し、両膝立ち⇒前方・後方への膝歩き⇒片膝立ちなどに移行し徐々に難易度を上げていきましょう。
立位レベル
今までの肢位とは違って、立位では重心の位置が高くなって難易度が上がります。
なので、近くに椅子や手すりなどすぐに摑まるものがある場所で行いましょう。
難易度の調整は支持基底面を歩幅の広さで調整したり、閉眼・開眼、四肢の動きを加えるなどして微調整します。
立位のバランスは、ADLに直結するので非常に大事です。
今、目標としている課題に近い姿勢や動作があれば積極的に行っていきましょう。
チェックポイント
左右への重心移動:左右への重心は、体幹側屈で重心移動をしてしまいがちです。なので骨盤からしっかりと重心移動するように指導しましょう。
側方へのリーチ:座位での側方へのリーチと同様に、セラピストの手にタッチしたり輪投げの棒に輪を入れるなど、目標物を作ってリーチを行うと距離感がわかりやすくなり、より効果的なトレーニングになります。
歩行
患者さんが一人で歩いての外出を目標にしており、歩行の実用性を向上させたいのであればこれらの内容を積極的に行う必要性があります。
その中でも早歩き、遅い歩き、頸部を回旋しながらでの歩行、横歩きなどは、日常生活での歩行で私たちが無意識で行っている動作でもあります。
患者さんにはリハビリで意識的に行ってもらって、最終的には無意識で動作を行ってもビクともしない身体になれるように良いトレーニングを提供しましょう。
チェックポイント
早歩き&遅歩き:遅歩きなどは協調性+筋力の要素が必要なので、転倒予防に効果的なバランストレーニングになります。
私がよく行うのは、患者さんに「早く!遅く!」など歩行速度を指示して、それに合わせて歩行速度を変えてもらってます。
人通りの多いリハ室などでは、周囲の状況を見ながら行わなくてはいけないので、より実用的なトレーニングになります。
頭部の回旋:頭部を回旋させることにより、前庭系への感覚刺激になります。
屋外での歩行では、常に前を見て歩くわけではないので、屋外歩行自立に向けた実用的なトレーニングです。
早歩き&襲歩きの練習と同様に、患者さんに「右!左!上!下!」など頸部の方向を指示して、その方向を向いたまま歩行してもらいます。
難易度が高いので、できる限り接触介助下で行うことをおすすめします。
横歩き:中殿筋などの筋力トレーニングにもなるので、大腿骨頸部骨折などの中殿筋の筋力低下がある患者さんに有効なトレーニングです
中殿筋の筋力が低下すると、骨盤の動揺が大きくになるので、後方から骨盤を介助して、正しい位置での筋収縮を促しましょう。
タンデム歩行:つま先と踵をつけて歩行します。
難易度が非常に高いので、歩隔を広げることにより、難易度を調整することができます。
片足立位
片脚立位系のバランストレーニングです。
非常に難易度の高いバランストレーニングです。
これができたら日常生活動作はほぼ全て可能でしょう。
チェックポイント
片脚立位での腰部回旋:片脚立位での腰部回旋は、膝関節屈曲位で行います。
難易度が高いので、私は、40~50代くらいの軽度の麻痺の男性患者さんなどに行ってもらいました。
支持下肢の中殿筋の筋力増強にも効果的です。輪投げなどを用いて行うと良いでしょう。
バランストレーニングにて片足立位をご紹介したので、次に片脚立位のカットオフ値と平均値を順にご紹介します。
片脚立位のカットオフ値
日本整形外科学会の片脚立位のカットオフ値は、15秒です。
15秒以下であると運動器不安定症と診断され、転倒のリスクが高いとされています。
加齢により下肢筋力、バランス能力は低下します。
地域在住の高齢者977名による体力測定(埼玉医大、坂田2007)調査における開眼片脚起立時間は、65歳代では平均44秒、70歳代31秒、75歳代21秒、80歳代11秒でした。75歳代での転倒群平均は男18.4秒女16.8秒で、非転倒群男23.9秒女24.6秒と有意の差がありました。
運動器不安定症と診断される15秒というカットオフ値は、坂田の調査結果に当てはめるとほぼ75歳代の転倒群に相当する数値でした。引用:日本整形外科学会HPより(https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/mads.html)
片脚立位の平均値
以下は平成26年度の文部科学省が行った体力・運動能力調査での、片脚立位時間の平均データです。
身体機能が高く、さらに上を目指したい患者さんなどいらっしゃれば、下記の平均値を目指してみてはいかがでしょうか?
H26年度の文部科学省:体力・運動能力調査での、片脚立位平均時間
- 65~69歳男子:約85秒、65~69歳女子:約87秒
- 70~74歳男子:約73秒、70~74歳女子:約74秒
- 75~79歳男子:約56秒、75~79歳女子:約54秒
道具を使用してのバランストレーニング
基本的には先ほどまで解説したバランストレーニングに加えて、バランスディスクや、バランスボードなどを使用します。
そうすることで、更に多様なバランス練習が可能となります。
バランスボードは、ゴム製で中に空気が入っています。
バランスディスクは全体が硬い素材でできており、裏側に凸があります。
両方とも上に乗って中心を捉えなければ、姿勢を保持できません。
上に乗った際は特に足関節周囲筋を使用するので、足関節周囲の筋力低下や、協調性が低下している方などに効果的です。
慣れていない方は高確率でふらつくので、必ず手すりなど支持物のある環境下で行って下さいね。
まとめ
バランストレーニングの考え方と私がよく患者さんに行ってもらうバランストレーニングを解説しました。
こちらでご紹介したのは、あくまで基本的な型です。
バランストレーニングは姿勢、支持基底面、重心の高さ、個々の環境調整、そしてセラピストの豊かな発想でいくらでも作れます。
患者さんにベストなバランストレーニングが見つかるように、臨床に役立てて頂ければ幸いです。