こんにちわ!理学療法士のシロマツと申します。
本記事では、介護予防で重要な「フレイル」について解説します。
フレイルの診断、評価、原因、予防方法や「サルコペニア」と「ロコモティブシンドローム」との違いは?など、フレイル全般の知識が身につくようにわかりやすく解説していきますよ!
フレイルの全般的な情報を網羅しており、わかりやすく記載されています。
フレイルとは?
フレイル又はフレイルティ(英語:frailty)は、単純に翻訳すると「虚弱」「老衰」「脆弱」という意味です。
しかし、医学的には「加齢に伴う様々な臓器機能変化や予備能力低下によって外的なストレスに対する脆弱性が亢進した状態」のことを指します。
簡単に言うと「加齢などが原因で身体機能が弱ってしまい、病気になり易い状態」を言います。
平成26年に、予防老年医学会が、介護予防の重要性を啓発するために、上記の状態をフレイルと呼ぶことに決定しました。
フレイルの医学的な定義については、現在のところ、まだ作られてないようです。
人はどのような経過で要介護状態となるのか?
フレイルを理解するにあたって、人がどのようにして要介護状態に近づいていくかを理解することが必要です。
そのモデルが、大きくわけて2つあります。
- 直下型フロー(要介護疾病モデル)
- 虚弱型フロー(フレイルモデル)
「直下型フロー」は、病気になるたびにガクッ!っと身体機能が低下する弱り方です。
病院で入院している方のほとんどがこの直下型フローのように要介護状態に近づいていくケースだと思います。
一方、「虚弱型フロー(フレイルモデル)」は、目立つような病気はしていないものの、活動性の低下、低栄養、運動不足などが原因で徐々に虚弱に近づいていき、要介護状態となる過程のことを言います。
徐々に虚弱となっていくため、これといった対策は行わず、気づけば介護状態となっていたケースが多いです。
この虚弱型フローでもわかるとおり、フレイルとは「健康状態」から「要介護状態」への移行期と言われています。
私は、訪問看護ステーションでリハビリを行っており、家族様など、フレイル状態を疑われる方と多くお会いします。
フレイル状態は、大きな病気に患っていないし、日常生活にそこまで支障はないことから、「自分はまだ健康である」と思ってしまいがちです。
実際に、フレイル状態にある方とお話をしても、「大丈夫。病気もしていないし、生活できてるから。」と危機感を感じにくい方がほとんど。というのが、私の印象です。
近年、フレイルが注目されている理由
現在、日本の高齢者は25%を超えて、ついに超高齢化社会に突入しました。
2025年には、勤労世代の2人に1人が高齢者を支える時代になります。
このままでは、医療費、介護費が莫大となり、子育て世代にお金を回せない、介護に人手が取られる、働けない!
などなど、長生きすることは非常に良いことなのですが、お金の掛かる要介護の方が増えてしまうと、経済発展のことを考えるとあまり良いことはないんです・・・
そういった背景から、2018年に、厚生労働省は、本格的にフレイル対策事業を始動するようです。
具体的内容
- 後期高齢者の特性に応じて、専門職(管理栄養士・歯科衛生士・薬剤師・保健師等)が対応の必要性の高い後期高齢者に対して相談や訪問指導等のモデル事業を対策
- 専門家や関係者による検討ワーキングチームにおいて事業内容の効果検証等を実施
ですが、国を挙げてこの対策を行ったとしても、高齢者や医療・介護職の一人一人が、フレイルに対する正しい知識や危機感をもっていないと、あまり意味がありません。
1人でも多くの人が、フレイルに対する知識や危機感をもち、「健康寿命を長く保ち、要介護状態の期間を短くする」ことが重要です。
フレイルの特徴
フレイルの多面性
フレイルには多面性があり、
- 身体的フレイル
- 社会的フレイル
- 精神・心理的フレイル
の3つにわけられます。
フレイルは加齢による身体機能の低下だ!解釈してしまいがちですが、身体的な要因だけではなく、社会的、精神的・心理的要因でもフレイルとなります。
この3つのうち、1つでもフレイルの要因があると、負のスパイラルに陥ります。例えば
閉じこもりがちになる
↓
認知機能の低下
↓
活動量低下により筋力低下
↓
閉じこもりがちになる
なので、身体機能面のみだけではなく、社会的に孤立していないか?精神・心理面は問題ないか?なども評価しましょう。
フレイルは可逆性
フレイルは、可逆性なので、早期発見と早期に適切な介入が重要と言われています。
(可逆性=元に戻すことができるということ)
この適切な介入をするためには、フレイルの原因やメカニズムを理解することが重要です。
フレイルの原因・発症メカニズム
フレイルの原因としては、
- 加齢による身体機能低下
- 筋力低下
- 低栄養
- 認知機能低下
- 易疲労性
- 常に管理が必要な疾患(呼吸器病、心血管疾患)
- 精神的要素
- 社会的要素(家族関係、経済的理由)
などが挙げられます。
フレイルの発症メカニズムを理解するにあたり、フレイルを提唱したFriedらは、「フレイルサイクル」というものを作成しました。
社会的問題、活動量低下、低栄養、精神心理的問題・・・などなど、どの項目がキッカケでもこのフレイルサイクルの中に入るとフレイルが進行してしまうことを言います。
このフレイルサイクルから抜け出すためには、なぜフレイルに陥ってしまったか?という根本的な原因を洗い出しましょう。
根本的な原因がわからなければ、フレイルサイクルから抜け出したとしても、またすぐにサイクルの中に入ってしまいます。
フレイルの診断・評価
フレイルの有名な診断・評価方法をピックアップしてみました。よろしければ参考にして下さい。
Friedらの診断基準
フレイルには決まった診断・評価基準はありませんが、1番よく使用されている評価指標は、Friedらの診断基準です。
Friedらの診断基準
- 体重減少:意図しない年間4.5kgまたは5%以上の体重減少
- 疲れやすい:何をするのも面倒だと週に3-4日以上感じる
- 歩行速度の低下
- 握力の低下
- 身体活動量の低下
1~2項目に該当=プレフレイル
3項目以上に該当=フレイル
引用:Fried LP, Tangen CM, Walston J, Newman AB, Hirsch C, Gottdiener J, Seeman T, Tracy R, Kop WJ, Burke G, McBurnie MA; Cardiovascular Health Study Collaborative Research Group. Frailty in older adults: evidence for a phenotype. J Gerontol A Biol Sci Med Sci56: M146-156, 2001
非常に簡易的に評価できるため、フレイルと疑っている本人が、行うには良いかもしれません。
しかし、この診断基準では、身体的要素のみで、社会的、精神的要素が含まれていません。そのため山田らは、社会的、精神的要素も含まれているFraily indexを作成しています。
Fraily index(山田ら)
Frailly index
6か月間で2-3kg以上の体重減少がありましたか? はい。で1 以前に比べて歩く速度が遅くなってきたと思いますか? はい。で1 ウォーキング等の運動を週に1回以上していますか? いいえ。で1 5分間のことが思い出せますか? いいえ。で1 ここ2週間、わけもなく疲れたような感じがする はい。で1 3点以上でフレイル、1-2点でプレフレイル、0点で健常。
引用:Yamada M and Arai H. Predictability of frailty scores on healthy life expectancy in community-dwelling Japanese older adults. J Am Med Dir Assoc, in press.
実際に、3つ以上満たす場合には、要介護・死亡リスクが有意に高くなるとのことです。
総合評価モデル(基本チェックリスト)
厚生労働省が発行している、フレイルになりそうな人やフレイルとなった高齢者の支援を行う、「介護支援事業の評価の基本チェックリスト」も使用されています。
このチェック表は、身体的、精神的、社会的側面を含んでいるため、フレイルの要素を幅広く評価できます。
(手段的ADL、社会的ADL、栄養状態、口腔機能、閉じこもり、記憶、抑うつ気分などの項目)
基本チェックリストでは、以下の1から4までのいずれかに該当する場合に介護支援事業の対象の候補となります。
- 1 から20 までの項目のうち10 項目以上に該当する者
- 6 から10 までの5 項目のうち3 項目以上に該当する者
- 11 及び12 の2 項目すべてに該当する者
- 13 から15 までの3 項目のうち2 項目以上に該当する者
少し項目が多く、評価を行うのにも時間が掛かりますが、よりフレイルを詳細に評価できると思います。
指輪っかテスト
非常に簡単にチェックできる評価で、東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢准教授らによって考案されたテストです。
人差し指と、親指で輪っかを作り、ふくらはぎの一番太い箇所を力を入れずに囲みます。
これで、隙間ができるようであれば、筋力、筋肉量が低下している「サルコペニア」の可能性が高いと言われています。
この後でも、解説しますが、サルコペニアであるということは、フレイル状態である可能性が高いです。
簡単なので、今すぐにでもチェックしてみましょう。
フレイル、サルコペニア、ロコモの違い
似たような用語でフレイル・サルコペニア・ロコモティブシンドロームなどありますが、しっかりと違いを把握して、用語を使いこなしておく必要があります。
- フレイル=身体的・社会的・精神的に虚弱している状態
- サルコペニア=運動不足・低栄養により、筋力・筋肉量が低下している状態
- ロコモティブシンドローム=運動機能の障害のために移動能力の低下を来たしている状態(関節疾患など)
サルコペニア・ロコモティブシンドロームには、社会的・精神的な要素は含まれいないため、概念としては、フレイルの方が大きいということになります。
その中で、身体的フレイルは、サルコペニア・ロコモティブシンドロームを含んでいるというイメージです。
しかし、サルコペニアは、筋力・筋肉量の低下で、ロコモティブシンドロームは、運動機能不全なので、同じ意味ではありません。
フレイルの予防・リハビリ・運動療法
フレイルを前もって予防することも重要ですが、フレイルは可逆性なので、戻すことも可能です。
もし、フレイルになってしまった場合、身体的・社会的・精神的に回復できるようアプローチする必要があります。
そのためには本人+周囲の働きかけにより身体機能の強化+社会参加を促していけなければいけません。
運動+高タンパクな栄養摂取
身体機能低下を防ぐために運動+高タンパクな食事を摂取することが重要です。
運動であれば、スクワット・ウォーキング。
高タンパクな食事であれば、鳥・豚・牛などの肉類に、魚類、豆類などです。
効率的に良質なタンパク質を摂取するには、運動後、30分以内にホエイプロテインを摂取するのも良いでしょう。
身体的フレイルとサルコペニアはほぼ同じ意味として考えても問題ありません。
詳しい栄養の取り方や運動療法は下記のサルコペニアの記事に記載しています。
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社会とのつながりを持つ
積極的に屋外に外出して人と話してつながりを持ち、社会的な孤立を防ぎましょう。
趣味などを通じて新たなコミュニティーに属するのも良いかと思います。
社会とのつながりを持つのは、女性は比較的容易にできるのですが、男性は難しいケースが多い印象です。
男性は、社会とのつながりを、仕事を通してしか持たないためだと思います。
男性は、若いうちから、仕事以外のことに興味を持つことが重要です。
フレイルの本当の原因
フレイルとなる本当の原因は、何なんだろう?と地域医療で働いていて日々考えます。
高齢になってもフレイル状態になっていないヒトは、日々ウォーキングやスクワットをきっちりして、高たんぱくな食事を心がけて、規則正しい生活をしているのか・・・?
個人的にはそうとは思えません。
私が思うに、フレイルになっておらず、長生きしている人は、毎日「自分のやりたいこと」をしている人です。
日々、自分のやりたい趣味や活動を持つことで
それが運動となり
社会との繋がりとなり
楽しいから長生きしたいと思い
栄養のある食事を摂取することに繋がります。
逆に、フレイルとなっている人は、「やりたいことがない」又は、「やりたいことがわからない」という人が多い印象です。
勤労時代に、仕事ばかりで、趣味・活動を楽しむ時間もない日々を過ごすと、定年後に自由になった途端、何をしていいかわからず、時間を持て余している方がフレイルになっているのではないでしょうか。
そう、フレイルの真の原因は「楽しいと思える趣味・活動を持たないこと」だと思います。
フレイルになってから、趣味や活動を行おうとするも、身体的、精神的にも余裕がないため、結局フレイル状態が続いてしまいます。
なので、フレイルになるまでに「楽しめる趣味・活動」を持ちましょう。
その趣味・活動も、お金を消費して楽しむものではなく、自ら努力をして何かを産み出し、生産する趣味の方がベストです。
仕事も大事ですが、若いうちに、少し余裕を作り、楽しめる趣味、活動を見つけましょう!
まとめ
フレイルについて解説しました。
これから日本では、予防介護が活発となり、フレイルが更に注目されていくでしょう。
フレイルに対する正しい知識と対策を持つことで、自分自身や家族、そして患者さん、利用者さんなどに役立てていけば、きっと日本は幸せな国になるはずです!
できることから少しずつフレイルを予防していきましょう!