と疑問に思う方もいらっしゃると思います。
日本神経学会のパーキンソン治療ガイドライン2018では、パーキンソン病の運動療法、作業療法、言語訓練、嚥下訓練、音楽療法について有効であるとの記載があります。
パーキンソン病そのものには効果はありませんが、ADL能力を維持する上で運動療法・リハビリテーションが効果的とされています。
なので、今回はパーキンソン病のリハビリテーションで基礎的な部分をまとめてみました。
パーキンソン病となったご本人様、家族様向けに全般的な知識がわかりやすく記載されています。
主にリハビリ専門職向けにエビデンスに基づいて詳しく記載されています。おすすめです。
パーキンソン病とは?
ざっと箇条書きで説明していきます。
- 徐々に進行していく、慢性進行性の神経疾患。
- 40~70歳で発症し、60歳代での発症頻度が高い。
- 日本では、15万人~18万人の方が罹患している。
- 60歳以上では、約100人に1人の割合と推定されている。
- 原因は、中脳の黒質細胞という細胞から出るドパミンという神経伝達物質の減少によるもの。
- パーキンソン病の症状は多くあるが、ほぼ4大徴候がメインとなる。(次に解説する)
パーキンソン病の4大兆候
パーキンソン病の特徴的な症状として、4大兆候と言われているものがあります。
それぞれの頭文字をとって、TRAP(トラップ)と呼ばれています。
解説する前に、まずはこの動画をご覧頂けるとパーキンソン病のイメージが湧きやすいと思います。
では4大徴候に行ってみましょう!
1:静止時振戦(rest Tremor)
振戦=手足の抹消がピクピクと常に動いている症状です。
特にパーキンソン病の特徴は、安静時にこの振戦が出現します。
振戦は一秒間に4~6回ほど出現し、母指とクスリ指で見られる振戦は丸薬丸目運動(pill rolling movement/ピルローリング モーヴメント)と言われています。
2:固縮(Rigidity)
安静時、パーキンソン病の方の他動運動時に、特徴的な抵抗感を感じます。
これには2種類ほど種類があります。
- 鉛管様固縮・・・まるで鉛の管を動かしたように終始感じる一定な抵抗
- 歯車様固縮・・・歯車が回転するようにガクガクとした一定ではない抵抗
他、手足に筋固縮が見られない場合、頸部に見られることもあります。
服薬によって、劇的に改善することが特徴的です。
カルテなどに固縮=rigidityとよく書かれているので、英語も覚えていた方が良いと思います。
3:無動(寡動・動作緩慢)(Akinesia(hypo-kinesia、bradykinesia))
無動の特徴は、動作の開始が遅く、その動作自体も時間がかかる症状です。
服薬で、固縮は劇的に改善しますが、無動は残存していることが多いです。
そのため、それぞれの症状は、独立していると考えてた方が良いでしょう。
また。筋固縮は見られませんが、無動が著しい患者さんも存在します。
4:姿勢反射障害(Postural reflex impair-ment)
パーキンソン病の姿勢反射障害は、知らない人もいるかもしれませんが、さらに細分化されます。
- 姿勢保持障害
- 平衡障害
- 立ち直り反射障害
- 共同ならびに連合運動障害
- 歩行障害
に区別されています。
この2.平衡障害、3.立ち直り反射障害は、発症初期ではほとんど見られませんが、進行と共に著明に出現します。服薬のL-dopaを使用しても、反応に乏しい症状と言われています。
症状の進行は、2タイプ
パーキンソン病の症状の進行は、2タイプにわけられます。
- 振戦・固縮優位型
- 姿勢反射障害優位型
振戦・固縮優位型は、振戦・固縮に対してL—dopaが効きやすいので、症状は緩やかです。
姿勢反射障害型は、姿勢反射障害にL-dopaが効きづらいということもあり、発症期間と比例して、症状が憎悪します。
そのため、振戦・固縮優位型は薬物療法を中心に対応して
姿勢反射障害型は薬物療法+理学療法士の介入が必要とされています。
他にもたくさんある多様な症状
wearing-off・on現象(ウェアリングオフ現象)
- wearing-off:L-dopaを長期間副作用することで、効果持続時間が減少して、短時間でパーキンソン症状が出現してしまうこと。
- Wearing-on:薬が効いている状態。しかし、薬が効きすぎて、副作用が出現しているときのことも言うため、必ずしも良い状態を指すものではない。
- Wearing-on、off現象:効果がonになったりoffになったりと交互に出現することを言い、L-dopaを多量に使用している羅患の長い患者に見られる。
小刻み歩行
無動の影響により、歩幅が極端に小さくなる症状です。歩行速度の低下が顕著に見られます。
突進現象
歩行中に徐々に突進傾向となり、歩き出すと止まれなくなる症状です。
すくみ足
歩き始めに、足が全く前に出ない症状です。
ジスキネジア
L-dopaの副作用により出現する症状で、四肢や頭部がクネクネと不随意運動してしまいます。
このようにパーキンソン病は非常に転倒する要素のある症状が多い疾患です。
他にも、発音障害、小字症、仮面様顔貌、多脂症、嚥下障害、自律神経症状、疼痛、感覚障害、疲労、認知障害、うつ症状、睡眠障害、性機能障害・・・・など本当に多岐に渡ります。
パーキンソン病の服薬について
パーキンソン病と切っても切り離せないのが、服薬治療です。
代表的なものにL-dopaがありますが、他にもたくさんあるんです。
服薬を知る前に、ドパミンとアセチルコリンの関係性を簡単に理解しましょう。
ドパミンとアセチルコリンの関係性
ドパミンとアセチルコリンは拮抗しあう脳内物質です。
ドパミンが増えて、アセチルコリンが減ると、統合失調症となり
アセチルコリンが増えて、ドパミンが減ると、パーキンソン病になります。
ドパミンとアセチルコリンは脳内で丁度よく釣り合わないといけないのですが、パーキンソン病は著明にドパミンが不足し、アセチルコリンが増えています。
なので、主に薬は、ドパミンを増やして、アセチルコリンを減らすという目的の薬が主です。
薬の種類 | 作用 |
L—dopa | 最も強力なパーキンソン病の治療薬。ドパミンを補充する役割がある。 |
ドパミンアゴニスト | Ldopaの副作用を軽減する薬。 |
抗コリン薬 | アセチルコリンを減少させる薬。 |
塩酸アマンタジン | ドパミンを放出を促す作用があり、ジスキネジアを抑制する。 |
ゾニミサド | wearing-offを軽くする作用があります。 |
MAO-B阻害薬 | L-dopaの効果を延長させる。 |
※副作用は、L-dopa=不随意運動、幻覚、幻聴、それ以外の薬の副作用は幻覚、幻聴などが主です。
チェックポイント
パーキンソン病は経過が長いです。そのため、パーキンソン症状が進行しているかどうかは、重要な情報です。
身体機能面の評価を頻繁に行い、服薬情報なども常に取得することで、動作能力の変化を、関節可動域や筋力から来たしているものなのか、それとも、パーキンソン症状からのものなのかを判断した方が良いでしょう。
疾患の評価
Hoehn-Yahr の病期分類
臨床上良く使用されているのは、Hoehn-Yahr の病期分類です。ヤールの分類と呼ばれています。
- stage1:一側性の症状で、身体の片側だけ、振戦、固縮が見られる。
- Stage2:両側に振戦、固縮、無動、姿勢反射障害が見られる。
- Stage3:歩行障害が顕著、方向転換や押された時に姿勢反射障害が見られる。
- Stage4:歩行が困難で介助が必要。
- Stage5:寝たきり状態で移動は車いす。
N字型で症状が進行する
パーキンソン病の症状は、一側性の症状で進行していきます。
よく、N字、または逆N字で症状が進行するといわれています。
症状の進行を適切に評価するために覚えておいた方が良いでしょう。
UPDRS評価表
Hoehn-Yahr の病期分類だけでは、パーキンソン病患者の多岐に渡る障害の全体像が把握できないということから、「UPDRS評価表」というものがあります。
4領域(認知・ADL・運動・治療の合併症)に加えて状態の良い・悪いときの評価を加えた包括的な評価です。
しかし、とてもチェックリストが多く、短時間では評価できません。
症状の変化が微細で、確実に細かく評価をしたいという方は実施してみて良いかもしれません。
パーキンソン病のリハビリテーションの考え方
パーキンソン病の運動障害には、パーキンソン病そのものによる1次性の機能障害と、それによって出現した2次的な機能障害があります。
リハビリでは、パーキンソン病そのものの進行を遅らせたり、良くしたりという見解は今のところありません。
しかし、リハビリを行うことにより、2次的な機能障害に有効というエビデンスが多数あります。
したがって、リハビリのメインターゲットは、この2次的な機能障害となります。
パーキンソン病の機能障害の改善に関するエビデンス
(日本神経学会パーキンソン病治療ガイドライン2011より)
- 運動療法が、身体機能、健康関連QOL、気運力、バランス、歩行速度の改善に有効(エビデンスレベルⅠ)
- 転倒に対する運動療法に転倒の頻度が減少する。(エビデンスⅡ)
- 外的刺激を用いた歩行訓練は有効(エビデンスレベルⅠ)
- トレッドミルを用いた歩行訓練は有効(エビデンスレベルⅠ)
- 聴覚刺激や、音刺激を利用した歩行訓練が有効(エビデンスレベルⅢ)
- 聴覚によるリズム刺激が最もパーキンソン病患者の歩行障害に対して効果的であったとされている(エビデンスレベルⅠ)
引用:日本神経学会:パーキンソン病治療ガイドライン2011
主なリハビリテーション
筋の伸張・関節可動域の維持・拡大
固縮・無動や前屈前傾姿勢が長く続くと、頸部、肩甲帯、腹筋周り、股関節屈筋、膝屈筋、下腿伸筋などが短縮し易く、拘縮などの原因となります。
関節の可動域が減少すると、動作に影響を与え、転倒し易くなるため、早期からROMやストレッチでの介入が必要です。
抗重力伸展筋の筋力維持・増強
前屈前傾姿勢の改善や歩行速度の向上を図るために、姿勢を保持する抗重力伸展筋の筋力トレーニングが重要です。
しかし、屈曲筋も筋力低下するので、同時、または交互に筋力増強トレーニングをする必要があります。
姿勢や動作に関連性のある運動を通して、トレーニングを行いましょう。
しかし、パーキンソン病は全身性のミトコンドリア異常が示唆されており、同じ運動に対して、正常人の2倍の運動量が必要となると報告されています。
そのため、十分に負荷量に注意して、運動を行いましょう。
バランス運動
座位、四つ這い、膝立ち、立位などアライメントを整えたうえで重心移動、もしくは、寝返り、起き上がり、立ち上がり、四つ這い⇒横座りなど姿勢変換動作を行います。
どなたかの見守りがある場合、前後左右への方向転換や、歩行中に声かけし、急停止や左右への首振りなどをして、応用的な歩行練習をしてみてもよいと思います。
関連記事>>リハビリテーションでのバランスとは?定義や、臨床での実際を解説 リハビリテーションでのバランストレーニング鉄板23選
踵補高の活用
後方への不安定性が著明なケースは、1~2㎝の踵補高を挿入することにより、重心が前方へ移動し、歩行などの動作能力が向上するケースが多々あります。是非、後方重心が顕著な方にお試し下さい。
※突進現象が出現しているケースには使用しないでください。更に前方へ突進してしまいます。
基本動作練習
パーキンソン病は廃用性症候群による筋力低下、全身持久力の低下、筋の柔軟性低下を伴います。
それにより、基本動作能力も低下します。
それぞれの動作能力に合わせた基本動作練習を行っていきましょう。
私生活の基本動作もリハビリの一部です。
少しでも活動性を維持できるように、恐怖心を取り除ける環境設定をし、活動性を維持しましょう。
外部刺激を用いた歩行練習
外部刺激を用いての歩行訓練は日本神経学会パーキンソン病治療ガイドラインでも推奨されています。
パーキンソン病は、音や視覚など、「合図(キュー)」を感覚入力することで運動を行いやすくという特徴があります。これを「奇異性運動反応」と言います。
そして、この合図(キュー)を用いて運動を行うことを「キューイング戦略」と言います。キューにも種類があります。
- 聴覚的キュー:声掛け(イチ、ニ、イチ,ニ!)やメトロノームを用いて、リズムに合わせて歩くことにより、すくみ足や小刻み歩行の軽減が見られます。
- 視覚的キュー:連続した白線の間を跨ぐようにして歩くと、小刻み歩行が改善する場合が多くみられます。
これらの特徴をうまく利用して、歩行距離を延長させたり、運動量を増幅させることで、より効果的なリハビリが提供できます。
精神的なサポート・ケア
パーキンソン病は進行性疾患です。現在のところ、根本的な治療はないので、患者さんは長い期間、病気と付き合っていかなければなりません。
この先、どうなるの?良くならないの?どうやって死んでいくの?など、不安な発言等が多く聞かれます。
精神の安定はQOLに大きく影響するため、まずは話を傾聴し、できることからゆっくりと、取り掛かりましょう。
また、患者さんとの関係性を決して壊してはいけません。
パーキンソン病で重要なことの一つに、リハビリの継続性があります。
リハビリを継続できるか、できないかで予後が大きく変わる可能性が高いです。
なので、セラピストの要因でリハビリが嫌いになって、介入終了とならないようにしたいところです。
まとめ
- パーキンソン病の一般的な臨床症状や薬の作用、ガイドラインやリハビリについての基本的な情報をまとめました。
- パーキンソン病は、お亡くなりになるまでリハビリが必要となる疾患です。可能な限りリハビリを楽しんでもらってストレスなく続けれるように工夫しましょう!